もしも、世界中の全ての本を読むことができたなら……

これまでの人類の歴史の中で、幾多の星のように生まれては消えてきた、数えきれない人たちの「思考」や「知識」「感情」。それらが文字となって残されてきた「本」。もし歴史上に蓄積されてきた全ての本を読むことができたなら、どんなことになるのだろう? そんなことなんてあり得ないのに、でもそんなことを想像したくなってしまうのが、膨大な知識を元に編集をおこなう松岡正剛、そして彼が代表をつとめる編集工学研究所の活動だ。一見なんだか小難しくも見える彼らの活動。しかし、そこには何かロマンティックな香りが漂っているのは気のせいだろうか? あらためて松岡正剛、編集工学研究所のこれまでと、松岡正剛が校長をつとめるイシス編集学校を概観してみよう。

知の巨人。つまり、
一人インターネットのような人

肩書きは「編集者」。しかし、その編集の射程範囲は恐ろしく広い。かのチームラボ代表・猪子寿之が「一人インターネット」「Googleより遥かに面白い」と称した知の巨人。所長をつとめる編集工学研究所の蔵書は7万冊以上。尋常じゃなく蓄えられた幅広い知識と、それらを縦横無尽に取り扱う編集能力。1970年代に発行された、あらゆるジャンルを融合、超越した雑誌『遊』は日本のアート・思想・メディア・デザインに多大な衝撃を与えた。さらにはそんな「編集の仕組み」を明らかにし、社会に適用できる技術として構造化した「編集工学」を実践し、修得するためのインターネット上の学校として、2000年にイシス編集学校を立ち上げた。ますます多様化する2014年の社会においても、松岡正剛はいまだワンアンドオンリーな存在だ。

今年70歳を迎えた彼の周囲には、日々変わらず多種多様な「面白い人々」が集まり、またそれらが編集されることで、新しいものが生まれている。ハイパーリンク状態の「知性」から生まれる、オリジナルな「ものの見方」は、これからの日本を共に生きる私たちにとってもまだまだ目が離せない。

才能の80%は編集力だ。

私が使う「編集」という言葉は、とても大きな範囲に使われています。普通は、新聞や雑誌の編集者がしている仕事を「編集」というのですが、そういう狭い見方をしていません。たとえば、人々が言葉や仕草でコミュニケーションをすること、その全てに「編集」というものが生きているとみなします。だから普段の会話にも学問にもエンターテインメントにも、スポーツも料理も「編集」が生かされているわけです。

ただ、そういった「編集の方法」は、普段自覚されていないことが多い。健康なときは身体のメカニズムのことなんて気にしませんが、ちょっと怪我をしたり病気にかかったりすると、急に内蔵の役割を知りたくなります。法律のことなんて気にしてもいなかったのに、家を買ったり、子どもが生まれたりすると、入門書を買ってきたり、なんとかその事情を知りたくなります。そうすると、そこには色々な「仕組み」があることがわかってきます。

そういう「仕組み」は、これまで長い時間をかけて編集されてきたものなのです。私たちは、歴史が培ってきた編集の成果に甘んじていて、それを享受するばかりになっています。それはそれで便利ですし、そうやって生活していても構わないのですが、けれども、いったん何かことが起きるとそうも言っていられません。

仕事で大きなプロジェクトに取り組むことになったり、自分の今後の進路を決めなければならなかったり、窮地に陥って起死回生のアイデアを出さなければいけなくなったり、恋に落ちて悩んだり、人生の各場面では、自分で編集をしなければならないこともたくさん起こります。

21世紀の社会は大きな再編集時代をむかえています。いまや銀行はかつての銀行ではなく、テレビとコンピューターはだんだん相乗りに向かい、携帯電話やインターネットを誰もが使う時代では、いよいよ一人ひとりによる編集力が急速に要請されるようになってきているのです。

(『知の編集術』より抜粋、再編集)

タイトルに「17歳のため」と書いてありますが、そんなことを一切気にせずに、全年齢の人に読んでもらいたい一冊。人間、文化、宗教、物語、ヨーロッパ、日本……。身近で大切なことのはずなのに、誰も教えてくれなかった「世界の見方」が、とても平易な言葉で書かれています。

 

『17歳のため〜』で、「世界の見方」が少し変わった人に、次は近現代にフォーカスを絞って丁寧に解説。同時代に起こった事象をバラバラに見るのではなく、あらゆるジャンルの知識を総動員しながら、横断することで一気に見えてくる世界の裏側。ドキドキします。

 

生きること=編集そのものである松岡正剛が、自身の「編集術」について、じっくりと語った1冊。編集工学に興味を持った人はもちろん必読の書。イシス編集学校で行なわれる実践的な編集稽古も28本収録しています。

 

10万冊以上の蔵書を持つ「酒豪」ならぬ「本豪」松岡正剛に「なぜそれほどまでに本を読むのか?」「どうすればそれだけ読めるのか?」など、率直な質問をぶつけまくるという爽快な1冊。「マッピング」「キーブック」など、気になるテクニックにも注目です。

 

さまざまな業界の経営者クラスなど、そうそうたる面々が数十人集い、松岡正剛の講義を聞くという「連塾」が3冊の本にまとめられました。強者揃いの聴衆に向かって、スピード感あふれるトークで縦横無尽に日本のルーツを深くえぐり出していく様は圧巻です。

 
  • イシス編集学校

    松岡正剛が編み出した「編集工学」を基礎から学び、世の中のさまざまなところに役立てていこうと、2000年にインターネット上に開校した編集学校。「日本する。編集する。」というコピーそのままに、受講者はすでに30,000人を超えており、「編集力」を身につけた次世代のクリエイターやビジネスマンを輩出しつづけています。編集学校のコースは編集力を究める守・破・離の3つのコースの他、編集術を伝える師範代養成プログラムの花伝所、五七の定型詩で遊ぶ風韻講座。五つの短編・長編をつくる物語講座などがあります。

  • 連塾

    松岡正剛に「日本」についての話を聞こう、という呼びかけのもと、知識人や経済人、アーティストなど各分野からそうそうたる面々が集まり(代表理事には資生堂名誉会長の福原義春さんの名前も!)、開催されたのがこの連塾。2012年に全20回、10年の歴史を閉じた伝説的イベントですが、その模様の一部は今でもWEB上で読むことが可能です。

千夜千冊

松岡正剛の千夜千冊」は、古今東西のあらゆるジャンルを横断するブックナビゲーションとして2000年にスタート。2004年7月に『良寛全集』で1000夜を越え、2013年3月には1500夜を数えました。

  • 『クール・ジャパン』
    コンセプトブック

    経済産業省によるクール・ジャパン戦略の一環として、コンセプトブック『面影日本Roots of Japan(s)』を編集。このコンセプトブックは日本のクリエイティビティーの歴史をまとめたもので、このエッセンスを元にした「CREATIVE TOKYO フォーラム」での松岡正剛の講演も大きな反響を呼びました。

とても簡単にまとめることなんて出来ない、松岡正剛、そしてイシス編集学校や編集工学研究所の活動。ご興味が湧いた方は、『ISISエディットツアー』に参加すると、実際に「本楼」の中で6万冊の書棚に囲まれながら、編集稽古なども体験できるそう。またウェブ上の編集力チェックでは、「自分の思考にはどんなクセがあるのか」など、無料でイシス編集学校の師範代による指南を受けてみることができます。誰もが人生の中で無意識に行なっているという「編集」作業。ここで、自分の「編集力」をあらためて振り返ってみるのもよいかもしれません。