映画『恋の罪』とは

90年代、渋谷円山町で起きた実在の殺人事件からインスパイアされた、禁断の世界—

『恋の罪』オリジナル予告編

どしゃぶりの雨が降りしきる中、
ラブホテル街のアパートで女の死体が発見される。
女刑事・和子(水野美紀)は謎の猟奇殺人事件を追ううちに、
大学のエリート助教授・美津子(冨樫真)と人気小説家を夫に持つ清楚で献身的な主婦・いずみ(神楽坂恵)の驚くべき秘密に触れ引きこまれていく……。
事件の裏に浮かび上がる真実とは?3人の女たちの行き着く果て、
誰も観たことのない愛の地獄が始まる――。

昼とは別の顔を魅せる女たち。
水野美紀、冨樫真、神楽坂恵が役者生命を賭け難役に挑んだ。
身も心もむきだしにした3人の演技バトルは“ 女優映画”の醍醐味にあふれ、日常の乾きから狂気へのラインを大胆に踏み越え、
堕ちていく中でまばゆい生命力を放つ女たちを生み出していく。
サスペンスフルな物語に、鬼才・園子温の圧倒的な演出力で、
人間の光と影を美しく鮮烈に描いた傑作。

世界から大きな注目を浴びる映画監督、園子温

監督・脚本 園子温

今、世界で最も注目されている監督のひとり、園子温。
2009年『愛のむきだし』ベルリン国際映画祭
2010年『冷たい熱帯魚』ヴェネチア国際映画祭
2011年 『恋の罪』カンヌ国際映画祭 と、
監督作を3年連続で三大映画祭に出品。
世界に、その強烈な映画世界の魅力を見せつけている。

『恋の罪』事件簿: 3人の女をプロファイリング (CINRA版)

尾沢美津子=冨樫真インタビュー

1973年、宮城県生まれ。蜷川幸雄演出『十二夜』で主演ヴァイオラ役を演じ注目を集める。映画では、98年『犬、走る』(崔洋一監督)でヒロインを演じ、高崎映画祭最優秀新人女優賞を受賞。その後2000年『閉じる日』(行定勳監督)で主演を務め、『マブイの旅』(02/出馬康成監督)『凍える鏡』(08/大嶋拓監督)でヒロインを演じるなど数々の映像作品に出演。

テキスト:宮崎智之(プレスラボ) 撮影:菱沼勇夫

「女って、こういう欲深さを持っているのよ。本当、お気をつけ遊ばせ」って言いたいですね
昼間はエリート大学助教授、夜は売春婦という難役に挑戦したのは、『十二夜』(蜷川幸雄演出)で主演を務めるなど舞台や映像作品で活躍する女優の冨樫真。冨樫いわく、「尾沢美津子」はただの役ではなく、「一人の人間として生きている存在」であり、彼女を演じるにあたって、冨樫自身との間で何度も話し合いがもたれたのだという。映画制作の裏で「女優・冨樫真」は「尾沢美津子」と、どう向き合い、どのような関係性を築いていったのだろうか? まさにキャラクターが憑依したかのような怪演を見せた、注目の女優にせまった。
——初めて『恋の罪』の台本を読んだとき、どのような感想を持ちましたか?
「奈良で舞台の公演をしている時に台本を送ってもらい初めて目を通しました。今まで一度も同じような内容を読んだことがない衝撃的な台本で、「いったい何が起こっているんだろう」と気になって読み進めるのですが、その先には驚きが隠されていて思わず前のストーリーを確認したくなるような。心と身体がざわつく、不思議な感覚に襲われたことを覚えています。」
――オーディションでは、冨樫さんが一人目の参加者だったそうですね。
「私が出演するかどうかはどうでもいい、この台本を書いて映画にしようとしている「園子温」という監督に一目だけでも会いたいという思いでオーディションに臨みました。でも、園監督の映画はほとんど観ていて大ファンでしたし、知らない人と会うと緊張するタイプなので、受ける前はガチガチになっていました。そんな性格のため、実は普段から目が悪いのにコンタクトを付けていないんです。色々なものが見えてしまうと、余計に怖くなってしまうので。だから、オーディション会場でも視野がボヤーっとしたままでした。それでも緊張しましたが。」
——どのように役作りをしましたか?
「監督が私を選んで「一緒に心中する」と言ってくださった時から覚悟は決まり、そこから美津子との「共同生活」が始まりました。「共同生活」と表現したのは、美津子という役については役作りをすることができなかったからです。無理に取り繕っても美津子という女の前では無駄だなと思いました。」
——二人の共同生活はどのようなものだったのでしょう?
「美津子が持っている闇を私は直接感じることはできません。だから、とにかく話し合うことからはじめました。私が持っている苦悩を美津子に提示して、「あなたも見せて」と語りかける作業の積み重ねです。一日の撮影が終わって寝ようとすると、美津子が私の足の上に乗ってきて、「今日の演技でいいのかよ。分かってるよな。明日も見てっからな」とダメ出しをされたことも何度もありました。いつも美津子に見られていて、離れたことはない状態でした。」
——「菊池いずみ」役を演じた神楽坂恵さんと一緒のシーンが多かったと思いますが、神楽坂さんとは演技について何か話されましたか?
「特に話していません。現場では、瞬間瞬間の気持ちや、目の前で起こっていること、空気感など、人間の触覚で感じることを大事にしたほうが、お互いの役に近づけると思ったからです。いずみが発した言葉を美津子が受け止め、どう返すのか。頭でなく感覚で、野生でやっていた気がします。いずみがどんどん変わっていくのも面白かったし、さらに、園監督も「もっと、もっと」と追い込んでくるので、本当に刺激的な現場でした。」
——美津子は大学の助教授と売春婦という二つの顔を持っている複雑な役柄です。
「先ほど、「美津子が持っている闇を私は直接感じることはできない」と言いましたが、一方で、細かい状況は違うにしろ、美津子が持っている闇に似たものは誰もが抱えているのではないかとも感じていました。普段は目を背けているかもしれませんが、女の深い業は確かに存在して、そこから出てくる欲求を実行するかしないかの差しかないのだと。その差は本当に紙一重で、この映画で起こっていることは、現実でも十分起こりえることだと思うんです。」
——「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」のフレーズから始まる詩人・田村隆一の『帰途』を美津子が朗読するシーンが印象に残りました。劇中でも「愛がなければ金を取らなきゃ」「私のところまで堕ちてこい」など衝撃的な言葉がたくさんありました。
「美津子はいずみに対して、一言も無駄な言葉は発していないと思います。助教授の顔のときも娼婦のときも、すべて大切なことしか話していません。一方で、言葉にはどこか虚しい部分があると思うんです。大事なものだけどとても危ういし、何の確実性も持っていない。いずみは美津子を崇拝している節がありますが、美津子自身だって全部わかっているわけではありません。いまここにいること、生きていること、肉体が存在していることの方がリアリティに満ちているということも事実だと思うんです。いずれにしても、この詩は『恋の罪』の世界観を理解する上で、重要なキーとなっています。ぜひ、注目してご覧になって下さい。」
——撮影を終えたいま、美津子との関係を振り返ってどのようなことを感じますか?
「美津子は危険な場所に常にいる女なので、付き合うのが大変でした。でも、カメラの前では美津子になれる瞬間があって。自分でも考えていないセリフとか、言葉の音、表情などが「冨樫真」から発せられていたことを考えると、本当に不思議な気持ちです。嬉しかったのは、映画を実際に見たときに、「冨樫真」とはまったく違う人間がそこにいることを発見できたことです。美津子はただの役ではなく、一人の人間、一人の女として生きている存在になったんだな、と自分では感じています。」
——最後に『恋の罪』の見どころを教えて下さい
「園監督の映画は、見る者に対して冷たさもあって、愛情もある、でも甘くはないところが魅力です。ご覧になる男性には、「女というのは、こういう欲深いところをもっているのよ。本当、お気をつけ遊ばせ」と言いたいですね(笑)。また女性の中には、こういう衝撃的な映画を好きではない人がいるかもしれませんが、私はむしろ女性にこそ観てほしいと思っています。映画の内容を肯定しても否定してもいいけど、目をそらさずに、少しでも覗いてみてほしい。そして、「あなたの中にも、あるでしょ? こういう感情も」って語りかけたいです。美津子なら、きっとそうするはずですしね。」
「尾沢美津子」を役ではなく、一緒に戦った戦友であるかのように語った女優・冨樫真。演じているというより、“憑かれている”と言った方が良く、インタビュー中にもことあるごとに美津子の声や表情が現れる瞬間が何度もあった。冨樫の言う通り、二人はまったく違う人間だが、その差は紙一重しかない。もちろん、それは我々も例外ではなく、美津子をプロファイリングするためには、まず自分が抱えている闇や苦悩を彼女の前にさらけ出す必要があるのかもしれない。

尾沢美津子キャラクター解説

愛の地獄への導き役となる、「罪深い夜の女」

テキスト:宮崎智之(プレスラボ)

大学の助教授と売春婦という二面性を持つ尾沢美津子。名門一家に育ち、誰もがうらやむ地位を築きながらも、渋谷・円山町では「罪深い夜の女」として知られている。彼女の激しい生き方は正義と悪の価値観を揺さぶり、自身だけではなく接する者に対しても欲望の彼岸に達することを常に要求し続けている。劇中に「愛のないセックスをするなら金を取れ」という台詞があるが、どんな小額であったとしても、かならず売春した相手には金銭を要求する執念は、筆舌に尽くし難いものがある。

そんな彼女に惹かれるのが、「堕ちる女」である菊池いずみ(神楽坂恵)だ。いずみは美津子に教えを請い、ある種の「師弟関係」を結ぶようになる。しかし、園子温監督が指摘するように、美津子もまた未完成な女の一人。複雑な家庭環境に育ち、自身でも解決できない深い業を抱えながら、「内部には大人になれない幼児性を温存している」(園監督)のである。そういう意味で、いずみと何ら変わりはないだろう。

他の二人の女性と比べれば、彼女は性に開けっぴろげで、「愛の地獄」に堕ちることに躊躇がないように思える。しかし、その一面を見るだけでは本当の彼女にたどり着くことはできない。彼女の「弟子」である菊池いずみが、どのような成長を遂げるのか、その先にある姿を目撃するまでは、答えを急ぐのは避けた方がよいだろう。

熱心なファンのためにキーワードを提示しておくならば、田村隆一の詩『帰途』とフランツ・カフカの小説「城」という二つの文学作品がある。より深く美津子をプロファイリングしたいと思う人には、作品をチェックしてから劇場に足を運ぶことをお勧めしておきたい。

CINRA.NET独占 キャラクター動画

※配信は終了しました

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『恋の罪』作品概要

『恋の罪』
2011年11月12日(土)
テアトル新宿ほか
全国ロードショー


監督・脚本:園子温
出演:
水野美紀
冨樫真
神楽坂恵
児嶋一哉(アンジャッシュ)
二階堂智
小林竜樹
五辻真吾
深水元基
内田慈
町田マリー
岩松了(友情出演)
大方斐紗子
津田寛治

配給・宣伝:日活

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