タイポグラフィとは、文字を用いたデザインのこと。
美しい文字表現やその手法を指す言葉として使われます。
20世紀以降、科学技術の進歩や社会状況により、タイポグラフィはめざましい発展を遂げました。
その変化の波はポスターにも現れます。
東京都庭園美術館では、このタイポグラフィに注目し、世界各国の作家のポスターを集め、その歴史の変遷と発展を感じさせる展覧会を、3月27日まで開催しています。
多くの情報をより分かりやすく、より印象的に伝えるために工夫が尽くされてきたポスターという媒体は、デザインの影の主役であり、アイデアの宝庫。
この展覧会を見れば、新しい発見やヒラメキが得られるかもしれません。
それでは少しだけ展示を覗いてみましょう。
19世紀までポスターは絵画と石版印刷(リトグラフ)が中心であり、画家による表現活動の延長という要素が強いものでした。
しかし20世紀に入ると、さらに大量生産が容易になり、ポスターは情報伝達のツール、広告としての役割をますます強めていきます。
第1部では、イラストから写真へ、装飾的な文字からシンプルな文字へと移り変わる時代の流れが現れたポスターが展示されています。
まさに、タイポグラフィの原点とも呼べる作品群です。
第二次世界大戦後、タイポグラフィ発展の地となったのはスイスでした。
水平垂直に画面を分割して各要素を構成する「グリッドシステム」や、文字の太さが同じである「サンセリフ体(日本語ではゴシック体にあたる書体)」を用いたシンプルな画面構成など、文字表現に関する技法がスイスでまとめられ、「国際様式」として世界に広がっていくのです。
しかし一方で、イラストレーションによるポスターもまだ盛んに作られていた時代でもありました。
国際様式が浸透した「商品広告としてのポスター」と、イラストレーションによる「芸術作品としてのポスター」。
このふたつの潮流がそれぞれに発展し、時に融合しながら新たなタイポグラフィが生まれていったのです。
ベトナム戦争やベルリンの壁崩壊など、資本主義と社会主義の新たな対立構造が顕著になり始めたのがこの時代。
若者の社会に対する批判的な態度から、ヒッピー文化やポップアートが生まれます。
その新たな潮流は、ファッションや音楽などと結びつき、ポスターデザインにも大きな影響を与えていきます。
80年代以降、先進各国では「国際様式」を超える新たなデザインが求められるようになります。
そこでデザイナーたちはそれぞれに嗜好を凝らし、ウィットに富んだポスターが多数登場します。
時代により形が生まれ、それを打ち破る新しい動きが始まる。
その繰り返しにより、現在のタイポグラフィがあります。
デザイナーは多くの制約の中で工夫を凝らし、知恵を絞り、タイポグラフィに挑んできました。
そんなポスターに秘められた歴史や試行錯誤には、新しいクリエイティブを生むヒントがたくさん隠されているのではないでしょうか。
ご紹介できたのはほんの一部。
そのめくるめく力作の数々を、ぜひ実際に確かめてみてください。
20世紀のポスター[タイポグラフィ] − デザインのちから・文字のちから
2011年1月29日(土)~3月27日(日)
会 場: 東京都 白金台 東京都庭園美術館
時 間: 10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日: 第2、第4水曜日(3月9日、3月23日)
料 金: 一般1,000円/大学生800円/小中高校生・65歳以上500円
※ドレスコード割引
文字のデザイン=タイポグラフィに注目した本展にちなみ、漢字がプリントされた服装で来館した方は100円割引(他割引との併用は不可)