20世紀のポスター[タイポグラフィー] - デザインのちから・文字のちから | 2011.1・29 - 3・27 | 東京都庭園美術館

20世紀のポスター[タイポグラフィー]

タイポグラフィとは、文字を用いたデザインのこと。
美しい文字表現やその手法を指す言葉として使われます。
20世紀以降、科学技術の進歩や社会状況により、タイポグラフィはめざましい発展を遂げました。
その変化の波はポスターにも現れます。

東京都庭園美術館では、このタイポグラフィに注目し、世界各国の作家のポスターを集め、その歴史の変遷と発展を感じさせる展覧会を、3月27日まで開催しています。
多くの情報をより分かりやすく、より印象的に伝えるために工夫が尽くされてきたポスターという媒体は、デザインの影の主役であり、アイデアの宝庫。
この展覧会を見れば、新しい発見やヒラメキが得られるかもしれません。

それでは少しだけ展示を覗いてみましょう。

東京都庭園美術館は、旧皇族の朝香宮の邸宅として1933年につくられた建物を、そのまま美術館として公開したもの。周囲に広がる緑と、アール・デコ様式の建物が溶け合い、まるで美術館全体がひとつの作品のよう。そして建築当時のままの姿が残されている館内はたくさんの見所があります。インテリアデザイナーであるアンリ・ラパンによる幾何学的リズムを基調とした内装、入口にあるルネ・ラリックによるガラスレリーフの扉、同じくラリックが手がけた大食堂のパイナップルとざくろがモチーフのシャンデリアなど、展覧会+αの楽しみも。

第1部 読む文字から見る文字へ:タイポグラフィの革新(1900s - 1930s)

第1部 読む文字から見る文字へ:タイポグラフィの革新(1900s - 1930s)

19世紀までポスターは絵画と石版印刷(リトグラフ)が中心であり、画家による表現活動の延長という要素が強いものでした。
しかし20世紀に入ると、さらに大量生産が容易になり、ポスターは情報伝達のツール、広告としての役割をますます強めていきます。
第1部では、イラストから写真へ、装飾的な文字からシンプルな文字へと移り変わる時代の流れが現れたポスターが展示されています。
まさに、タイポグラフィの原点とも呼べる作品群です。

例えば、展示室を入るとすぐ目に入るフェルディナント・ホードラーによる1904年の作品。これは展覧会の告知用ポスターですが、会期などの情報よりもホードラー自身の作風を生かした、絵画を思い起こさせる作品です。ところが、その10年後に作られたペーター・ベーレンスの作品では、イラストと展覧会情報を分けることで情報が伝わりやすく整理され、文字も中央揃えにするという工夫がされています。ホードラーは画家であり、ペーレンスは建築家・デザイナーであることからも、ポスターの役割が変化した時代背景がうかがえます。

第2部 タイポグラフィの国際化:モダンデザインの展開と商業広告の拡大(1940s/1950s)

第2部 タイポグラフィの国際化:モダンデザインの展開と商業広告の拡大(1940s/1950s)

第二次世界大戦後、タイポグラフィ発展の地となったのはスイスでした。
水平垂直に画面を分割して各要素を構成する「グリッドシステム」や、文字の太さが同じである「サンセリフ体(日本語ではゴシック体にあたる書体)」を用いたシンプルな画面構成など、文字表現に関する技法がスイスでまとめられ、「国際様式」として世界に広がっていくのです。

しかし一方で、イラストレーションによるポスターもまだ盛んに作られていた時代でもありました。
国際様式が浸透した「商品広告としてのポスター」と、イラストレーションによる「芸術作品としてのポスター」。
このふたつの潮流がそれぞれに発展し、時に融合しながら新たなタイポグラフィが生まれていったのです。

西欧のタイポグラフィの思想を日本に紹介した原弘、戦後日本のデザイン界をけん引した亀倉雄策などの作品も展示されています。
	豪奢な階段をのぼって2階へ。展示はまだまだ続きます!

第3部 躍動する文字と図像:大衆社会とタイポグラフィの連結(1960s/1970s)

第3部 躍動する文字と図像:大衆社会とタイポグラフィの連結(1960s/1970s)

ベトナム戦争やベルリンの壁崩壊など、資本主義と社会主義の新たな対立構造が顕著になり始めたのがこの時代。
若者の社会に対する批判的な態度から、ヒッピー文化やポップアートが生まれます。
その新たな潮流は、ファッションや音楽などと結びつき、ポスターデザインにも大きな影響を与えていきます。

例えば寺山修司の芝居『大山デブコの犯罪』ポスターを制作した横尾忠則は、独特のサイケデリックな色使いで人気を博しました。また私たちにとっておなじみの、新宿アイランドタワー前の彫刻作品『LOVE』の作者、ロバート・インディアナの展覧会告知ポスターも見ることができます。

第4部 電子時代のタイポグラフィ:ポストモダンとDTP革命(1980s/1990s)

第4部 電子時代のタイポグラフィ:ポストモダンとDTP革命(1980s/1990s)

80年代以降、先進各国では「国際様式」を超える新たなデザインが求められるようになります。
そこでデザイナーたちはそれぞれに嗜好を凝らし、ウィットに富んだポスターが多数登場します。

フォトコラージュの名手ともいわれる木村恒久による、映画『ツィゴイネルワイゼン』のポスターも展示されています。ナメクジに塩をかけるシーンは本編には登場しないので、木村氏独自の解釈から生まれたイメージなのでしょうか。見る者の想像力をかきたてる、ポップで意欲的な作品です。
さらに90年代に入ると、パソコンの普及により技術革新がますます加速していきます。DTPによるデザインレイアウトで編集が容易になり、デジタル処理を取りこんだ作品が多く制作されます。デザイナー自らの繊細な直感を表現できるようになったことで、それぞれの個性やイメージがより鮮明に表れている作品が増えていったのです。

時代により形が生まれ、それを打ち破る新しい動きが始まる。
その繰り返しにより、現在のタイポグラフィがあります。
デザイナーは多くの制約の中で工夫を凝らし、知恵を絞り、タイポグラフィに挑んできました。
そんなポスターに秘められた歴史や試行錯誤には、新しいクリエイティブを生むヒントがたくさん隠されているのではないでしょうか。
ご紹介できたのはほんの一部。 そのめくるめく力作の数々を、ぜひ実際に確かめてみてください。