第一線で活躍する映像作家が
小型デジタル一眼を使う理由
Perfumeのアートワークや映像作品を筆頭に、名だたる人気アーティストのミュージックビデオで手腕を振るう映像ディレクター・関和亮。毎作品、思いも寄らない大胆な発想と斬新なアイデアで、アーティストの音楽性と個性を、そこに漂う空気感と共にパッケージングしてきた関和亮の作品は、観る者に映像を観る面白さ、撮る面白さの両方を感じさせてくれる。数年前より、実際に小型一眼デジタルカメラを使った映像作りにも乗り出し、写真家、グラフィックデザイナーとしても活躍する彼に、カメラが与える新たな発想とは? 「撮る」ことへのこだわり、カメラへのこだわりを語ってもらいました。
1976年長野県生まれ。1998年ooo(トリプル・オー)所属。2000年より映像ディレクターとして活動を始め、2004年よりアート・ディレクター、フォトグラファーとしても活動。現在に至る。PerfumeのPVやアートワークも手掛ける。手がけたおもなミュージックビデオに、柴咲コウ『無形スピリット』、ねごと『カロン』、NICO Touches the Walls『手をたたけ』など。サカナクション「アルクアラウンド」MVにて第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞。
トリプルオー
現場のニーズとして、小さくて軽く、綺麗に動画を撮れるデジカメが必要だった。
—第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞された、サカナクションの“アルクアラウンド”のミュージックビデオは、デジタル一眼レフカメラの動画機能を使って撮影されたそうですね。
関:そうなんです。ムービーの撮影機材はとても大がかりですから、“アルクアラウンド”のように歩きながら5分間も長回しをするとなると、カメラマンの負担も非常に大きい。あれくらい広い場所全てに照明を立てるのも大変ですから、小さくて高感度で高画質なカメラはないかと探した結果、デジタル一眼レフカメラを使うことに決めたんです。また、あのビデオでは、バラバラになった文字を映像で追って読ませる演出がある。あの文字も、ある一点のアングルでしか読めないんです。本来なら、人物を追う撮影にはステディカムが適していますし、一応用意はしていたんですが、カメラが大きいせいで、決められたアングルにピタリと止め、またすぐスムーズに歩き出すことができないんです。それもあって、グリップ付きの手持ちデジタル一眼レフでの撮影に切り替えました。
—それ以降もデジカメを使った撮影はされてますか?
関:今はそちらのほうが主流かも知れないです。サンボマスターの“ロックンロール イズ ノットデッド”のミュージックビデオで使ったデジカメが、ソニーのNEX-F3でした。カメラを楽器に取り付けて撮影したら面白い映像が撮れるだろうと考えてみたまでは良いのですが、普通のデジタル一眼レフではかさばるし重すぎる。しかもメンバーだけでなく、たくさんの一般の方にも参加していただいたので、その都度、照明スタッフを連れて行くこともままならなかったんです。いろんな状況が想定されるたくさんの場所に伺って、僕ら最低限のスタッフで撮影するとなると、高感度で被写界深度も自由で高画質でと、高性能な一眼レフカメラに求められる条件を満たしながら、小さくて軽いデジカメが必要だったんです。それで調べていったら、NEX-F3に行き着いたんですよね。値段も手頃ですし。そういうわけで、NEX-5Rにも最初から注目していたんです。
—コンパクトで高性能、一般の方でも手軽に持ち歩けるカメラがあってこそ実現するアイデアでもあり、映像表現の幅も広がるという例ですね。
関:全くそうですね。もしかしたら、アーティスト本人が小さいデジカメで撮った映像が、ミュージックビデオとしては一番の正解なのかも知れないですしね。NEX-5Rを使ってると、実際クオリティー的には問題なくて、業務用のカメラと同じ表現が可能だと思います。僕はカメラの知識があるので、あえてマニュアル撮影をメインで使っているのですが、必要ならばレンズも付け替えられますから、映像、画像の表現力、クオリティーは十分だと思いますし、いろいろ試したくなりますね。
—コマーシャルな撮影にも耐えられると。
関:全く問題ないですね。シャッターを押して切れるまでのレイテンシーもなく、ほんとに一瞬。気持ちよく撮れますよね。カメラマンにとってこの「速さ」と「気持ちの良さ」というのは結構大事で、その感覚にこのカメラは応えてくれる。モデルさんや俳優さんのスチール撮影でも、ほんのちょっとしたタイミングで表情が変わってしまう。その良い瞬間を逃すと、撮り続けるのが辛くなりますからね。NEX-5Rならプライベートでも仕事の場面でも、その良い瞬間を逃さず撮れるんです。
幼少期からカメラで遊び、工夫する楽しさを知った。
—今はプロとしてカメラをお使いになっている関さんですが、最初に「カメラ」に興味を持ったのはいつ頃のことですか?
関:小学生のとき、父親が自宅にモノクロ写真の暗室を作り、自分の撮った風景の写真を現像して飾っていたんです。それを見ながら、「写真というのはこうやって仕上げるのか」と興味を持っていって。あと父が、ソニーのHi8を持っていまして、それをオモチャ代りに遊んでいたんです。友達と裏山で戦争映画を撮影したり、部屋で「今日のお買い得商品は、ゴロゴロ肩揉み機です!」とか言いながら、テレビの通販CM番組をパロディにしたり。かなりバカバカしいことを、真剣にこだわってやっていましたね(笑)。
—関さんの撮られるミュージックビデオは、ユニークなアイデアの仕掛けが仕込まれているのも魅力ですが、そういった創意工夫は、Hi8をいじっていた少年時代に培われていたのかも知れませんね。そこから今に至る道を目指されたのは、どのようなきっかけで?
関:音楽への興味ありきでした。中学時代、テレビでUK、USのミュージックビデオを流すチャート番組があって、音楽に映像をつける仕事もあるんだと知ったのがきっかけです。最も印象的だったのは……やっぱりマイケル・ジャクソン。“ブラック・オア・ホワイト”のミュージックビデオは今思えば、ただマイケルが好きなことをやっているだけの映像なんですが(笑)、世界中の人々、世界中のダンスをシームレスに繋げることで、「世界には壁がない」というメッセージを訴えていた。そんなミュージックビデオの使い方もあるんだなと感心しました。もちろん最新の映像技術もすごかったですしね。
映像も写真も分け隔てなく関わった経験が、今の作品作りに役立っている。
—関さんはムービーだけではなく、Perfumeの写真集やアートワークもずっと手掛けていますし、写真との関わりも深いですね。ご自分で写真を撮るようになったのは、いつ頃からですか?
関:大学に入学して東京に出てくるときに、父がずっと使っていた一眼レフを「持って行け」と渡してくれたんです。あと今の所属会社(トリプル・オー)も、学生時代のアルバイトをきっかけに入社したんですが、ムービーの仕事ができると思って入ったのに、実はビジュアルの仕事がメインの会社で(笑)。なので、アシスタントディレクターとしてスチールの仕事もたくさん経験しました。その合間にムービーの仕事もあったので、今日はスチール、明日はムービーと幅広く。その経験は、今の僕の作品にも役立っていると思います。
—素人考えで恐縮ですが、ムービーとスチール写真では作品のコンセプト、そこに向き合う態勢にも違いがあって、切り替えは難しいのではないかと思うのですが、実際はいかがでしょうか?
関:もちろんやり方や段取りは違うのですが、スチールはムービーの止め画だと考え、あまり深く悩まずに撮るようにしています。ただやはり、時間のかけ方は大きく違う部分ですね。ムービーはどんなに短い作品でも、撮影にものすごく時間がかかりますから。写真も、撮影に時間をかけようと思えばいくらでもかけられますが、特に僕が手がけているエンターテイメントの世界では、短い時間で集中して撮ったほうが良い物ができる気がします。
機材の能力や技術からの発信で、アイデアがひらめくこともある。
—では、関さんが映像を撮る際にこだわられていることというと?
関:僕のベースはミュージックビデオですから、音楽を作った人の気持ちは常に考えていますね。雰囲気も含めた音楽とのマッチング。音が聴こえてくる映像を作りたい。テクニカルなところだと、何か一つというわけではなく、まだ誰もやっていない技術、既にある技術でも「こう使ったら面白いんじゃないか?」と考えることは多いですね、天の邪鬼なので(笑)。
—では、カメラ機材が、撮影する側の発想にも影響を与えると。
関:ありますね、それは。動画を綺麗に撮れるデジカメが出た……なら、水の流れを撮ってみたいとか。機材の能力や技術からの発信で、演出が変わるということは確実にあります。例えばハイスピード撮影は映像ギミックとしてとても分りやすい例ですし、綺麗なスチールが撮れて連射機能がすごいカメラなら、写真だけを繋げて映像にするとか。これまでに僕もいろいろやってきましたし、NEX-5Rも撮影機能の幅が広くて、アイデアは考えやすくなりますよね。
—子供の頃から楽しんで映像を作ってきた関さんだからこそ、技術から生まれる「面白さ」にも敏感なのでしょうか?
関:敏感かどうかは分かりませんが、カメラの機能に惹かれる気質は強いようで、NEX-5Rはそういった点でも触っていて楽しいんです。最近のカメラは高性能で多機能ですが、使えば使うほど、自分の好きな撮り方というのが決まってくると思うんですよ。このカメラでいうと、例えばピクチャーエフェクトのアプリ。トイカメラの色合いを変えたり、いろいろ追求したくなりますね。さらにネットワーク機能を活用して、自分好みのカメラに成長させていけたり、機能をカスタマイズできて面白い。
—写真だと、最近はどういったものを撮ることが多いでしょうか?
関:最近産まれた自分の子供の写真ばかり撮ってます(笑)。NEX-5Rは、シャッターを瞬時にバシバシ切れるので、ついつい撮りまくってます(笑)。このカメラはフォーカスの設定も手軽で試しやすいんですが、ちょっとフォーカス甘めの設定で撮ると、子供がすごく可愛くなりますね。同じアップでも、手だけにフォーカスが合ってるとか。赤ちゃんの手って可愛いじゃないですか(笑)。
関:あとNEX-5Rは、白く飛ばした部分の階調がすごく綺麗なので、光の加減を活かした写真を撮りたくなります。本体のモニターで見ても綺麗だし、高解像度の写真を大画面で見るとより綺麗です。
フォーカスが早いので、撮りながら映像を演出する楽しさがある。
—動画はお仕事でもいろいろな撮影をなさっていると思いますが、プライベートでも撮られたりするのでしょうか?
関:もちろん撮りますよ。こういう小型のカメラで撮影するようになってから、普通は写真にしてしまうような風景を、あえて動画で撮影する面白さを発見したんです。写真とは切り取り方も変わりますし、同じ風景でも、動画なら空気の動きまで捉えられる。写真と映像を同時に残しておけば、より良い思い出になるので、最近はよく車窓の風景を撮影して楽しんだりしています。特にNEX-5Rはフォーカスの反応が非常に早いので、動きのある動画も綺麗に撮れて良いですね。動画撮影中にタッチパネルで映像を演出できるのも楽しいですし。
—こうした映像からも、そうやって機材の機能に触発され、追求しようとする関さんの気持ちが感じ取れますね。今後撮ってみたい映像のイメージはありますか?
関:エフェクティブな映像って、撮影した後からエフェクト処理をかけるのがすごく大変なので、NEX-5Rのようにエフェクトをかけながら撮影できるのはアリだし、女の子を撮影したら良い感じのミュージックビデオになりそうなので、機会があればNEX-5Rでぜひ試してみたい。こういうコンパクトで高性能なカメラが出てくると、映像も写真もこれからは機材のスペックで勝負するのではなく、中身で勝負する時代になったんだなぁと実感しますね。