My Photo, My Creativity with Sony NEX-5R

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渋谷慶一郎(音楽家)インタビュー

テクノロジーの進化は、
クリエイティブにも変化と進化を及ぼす

自らATAKレーベルを主宰し、様々なジャンルを横断しながらフレキシブルな表現活動を繰り広げる音楽家・渋谷慶一郎。映像作家や写真家とのコラボレーションも多い彼は、自身のCDジャケットなどのアートワークでも、その才能を遺憾なく発揮。SNSやブログで公開される写真も評判を呼んでいる。「最近は見るほうが多くなってしまいましたが、写真を撮るのは好き。8〜9年前はよくモデルシュートもやっていました」という彼にとって、写真とは? 音楽と写真の話を通して、そのクリエイティビティーの源泉が見えてきました。

インタビュー・テキスト:阿部美香
インタビュー撮影:菱沼勇夫

PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベルATAKを設立、国内外の先鋭的な電子音響作品をCDリリース。代表作に「ATAK000+」、「ATAK010 filmachine phonics」など。2009年、初のピアノソロ・アルバム『ATAK015 for maria』を発表。2010年には『アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎』を発表。以後、TBSドラマ『Spec』、映画「死なない子供 荒川修作」、2012年公開の「セイジ 陸の魚」「はじまりの記憶 杉本博司」など映画、テレビの音楽を立て続けに担当。2012年には初のシングル「サクリファイス 渋谷慶一郎 feat.太田莉菜」を発表。また国内外でマルチチャンネルによる大規模なサウンドインスタレーションを発表、コンサートも行うなど多彩な活動を展開している。12月1〜2日には山口情報芸術センター(YCAM)にて初のオペラ作品「THE END」を発表、12月26日には東浩紀とのコラボレーション作品「イニシエーション 渋谷慶一郎+東浩紀 feat.初音ミク」の発売が決定している。
atak.jp

写真には、音楽との親和性をとてもよく感じる。

—渋谷さんは、音楽制作の合間によく写真を撮られるそうですね?

渋谷:最近よく撮っているのは空の写真ですね。朝まで仕事場で音楽を作って、そこから家まで自転車で帰るんですが、その途中でよく撮ります。音楽制作をしているときは部屋に籠もりきりなので、外で見るもの全てが新鮮なんです。そういうときに見る空と重なった木々は、複雑な境界線を織りなしていて、フラクタルみたいなんですね……。そういう写真を何の目的もなく撮るのが好きですね。

—普段から、よく景色や空を眺めたりするのですか?

渋谷:いや、以前は全くだったんですけど、ドイツにあるダニエル・リベスキンドが建てた博物館に行ったときに変わったんです。あの建物は至る所に傷を模したデザインが施されているのですが、その中庭のような場所に、木が鬱蒼と生い茂っていて。僕は夜にそこを訪れたんですが、パッと上を見ると、枯れている枝が無数に伸びて、ちょうど空に傷が入ったように見える。それが意図的かどうかは分らないのですが、とても印象に残っていて。それ以来、空を見上げると、木の枝が作る空の傷を探す癖がありますね。

渋谷慶一郎

—そうして「写真を撮る」ということは、渋谷さんにとってどういう意味を持つのでしょうか?

渋谷:深呼吸に近いかな……。あと音楽とも共通点が多くて、例えば同じ平面表現でも、「絵画」よりも「写真」のほうが音楽に似ていると思うんです。つまり音楽や写真って、その日によって見え方が違ったり、自分の受け取り方、感じ方が変化する。同じように毎日空の写真を撮ったりしていると、そういう音楽との親和性をとてもよく感じますね。

—同じものなのに、違うものに感じられる。そういう楽しさが、写真や音楽にはあると。

渋谷:そう。そしてそれをどれだけ違うものに読み換えられるかが、物を作るということなんじゃないかなと思います。自分がピアノで弾いたなんでもない和音を、初めて聴いた音のように感じられるかどうかということなんですね。あと、「写真を撮る」ことに意欲的に取り組もうとすると、対象となるのは風景ではなく身近な人たちが多いですね。同じ場所で働く人たち、友人たちを撮りたくなります。人物写真といえば、写真家の新津保建秀さんと複雑系研究者の池上高志さんは、僕がプライベートで撮ったポートレートをアーティスト写真として使ってくれているんですよ(笑)。

NEX-5R撮影写真1/50、F5.6、ISO3200、50mm

写真と音楽は、テクノロジーの進化と日々向き合っている。

—新津保さんをはじめ、渋谷さんは写真家の方とも交流が深いですが、写真談義をされることはありますか?

渋谷:しますね。“α” NEXシリーズも、新津保さんにオススメされたカメラだったんですよ。僕は新津保さんや鈴木心くんと仲が良いんですが、写真に関してすごく面白い発見があって。鈴木心くんに、僕が太田莉菜さんと作った『サクリファイス』のジャケット写真を撮ってもらったときのことなんですが、かなり高解像度なカメラを使っていたので、印刷技術のクオリティーが一般的に低い台湾でプリントしても、何ら問題ない仕上がりになったんですね。同じようなことは音楽にもあって、MP3音源は音が悪いと言われますが、例えば僕がよく使っている高音質のDSD(ダイレクトストリームデジタル)音源をMP3に落としたものと、従来のPCMという技術の非圧縮のレコーディング技術を比べると、DSD音源を圧縮したMP3のほうがずっと音が良いんです。特にピアノの音なんかでは顕著に違う。つまり本物のテクノロジーは、これまでの技術や職人芸を一瞬で無効にしてしまう可能性を持っている。ある意味では怖いものなんです……。写真と音楽は、そういうテクノロジーの進化と日々向き合っているという意味でも似ていますね。

—写真の世界も、音楽のようにテクノロジーの進化が早い、と。

渋谷:そうです。素人がこのカメラでセンスの良い写真を撮ってしまったら、立場が危うくなるプロの写真家が絶対に出てくる(笑)。僕もデジカメは何台か使ってきましたし、よく使っているスマートフォンのカメラもずいぶん高品質にはなりましたが、NEX-5Rでの撮影はやはり全く違い、ものすごく満足感があります。まず、このコンパクトなサイズのカメラで高画質というのが良いですよね。

—どういう場面で違いを感じますか?

渋谷:ご要望をいただくことが多いので(笑)、SNSに自分の写真を自分で撮ってアップすることがあるんですけど、照明の感じが良いので、スタジオのトイレの鏡の前で撮影することが多いんです。NEX-5Rは背後のボケ感も良い感じになりますし、とてもビビッドでくっきりとした写真が撮れる。日常の瞬間をそのまま切り取る能力に、強い印象を感じています。

NEX-5R撮影写真1/60、F4.5、ISO 1600、27mm

—画像も音像も、やはり輪郭の鮮明さは重要ですか?

渋谷:解像度が甘いと輪郭が緩くなるし、そうすると写真にノスタルジーが関与してきてしまいますが、NEX-5Rではそれがない。非常に即物的に撮影しても階調が深いので、日々の風景や瞬間を撮るのが楽しいです。階調が平坦なカメラの場合、ストロボ技術がなければ良い雰囲気にはならないんですが、NEX-5Rはそこまで腕のない僕でもいい感じになりますよね。モノクロのエフェクトもハードすぎず、僕好みで使えます。

—さきほどファンからの要望で写真をSNSにアップしているというお話がありましたが、普段はどのようにしているのでしょうか?

渋谷:ハニカムでやっているブログ用の写真は、スマートフォンアプリで撮ってパソコンからメール転送しているのですが、こういうカメラがあれば、高解像度の写真を手間を掛けずにアップできそうですよね。ソーシャルと相性が良いカメラは今の時代のニーズにも合っているし、ケータイと写真専用機の対立軸を飛び越えた、シームレスな次世代のカメラだと思います。

NEX-5R撮影写真ハイコントラストモノクロ、1/80、F5.6、ISO 1000、50mm

「動画を撮る」という行為自体が変わる気がするんですよね。

—確かにこうしたシームレスな製品が登場するのも、テクノロジーの進化の恩恵ですね。

渋谷:そうだと思いますよ。テクノロジーの進化という意味では、カメラで撮る動画というのも僕には興味深いです。このカメラにも動画撮影機能がありますが、動画を撮るだけならスマートフォンでもできるわけです。でもスマートフォンでだと、容量の関係上、1分ほどしか撮れなかった。ところが、最近のスマートフォンは容量が飛躍的に増えましたよね、デジカメでもこの機種のようにメモリーを多く使えるデジカメなら10分、20分の長回しもできてしまう。そうなったとき、「動画を撮る」という行為自体が変わる気がするんですよね。懐かしい話でいえば、HIROMIXが出てきたとき、みんなの写真の撮り方が変わったように。僕はずっと、メモリー容量の増大が動画というものを変えていくだろうと感じていたので、いよいよそういう時代になってきたのかなと思います。

—渋谷さんがこれから撮ってみたいものはどのようなものでしょうか?

渋谷:NEX-5Rみたいな小型で画質の良い一眼であれば、ヨーロッパに行って電車に乗るときに、ケミカル・ブラザーズが「スター・ギター」のPVでやっていたみたいに、電車の窓にカメラを置きっぱなしにして撮影したくなりそうです(笑)。あと面白いのは、人がアカペラで何か歌っているところですね。鼻歌は、その人の本質が分かるんですよ。

—渋谷さんは普段の活動の中で、動画を活用する機会は多いですか?

渋谷:僕はコンサート前日などに、緊張感を高めたリハーサルのつもりで、自分がピアノを弾いている風景をUstream配信することがあるんです。デジカメの動画も、そういう使い方ができますよね。以前、僕のピアノ演奏を観ていた人で、赤い靴でペダルを踏む足元が面白いから、そこだけ撮影してみたいと言っていた友達がいて。そういう部分をピックアップした映像を、高画質で動画サイトにアップするというのは面白そうですね。

音楽も写真も、自分の感じ方が日々変化してくのを楽しみながら、
これからも創作活動を続けていきたい。

—渋谷さんにとって、写真はご自身の生活にもとても身近なもののようですが、逆に写真から曲想などをインスパイアされることもあるのでしょうか?

渋谷:直接的ではないですが、写真集をたくさん買ってきて、音楽を作ることはありますね。でも、写真集は開かないで、表紙だけをチラッと見て、またキーボードに向かったりしてね(笑)。脇に置いておいて、ちょっと気にするくらいの存在にしておく。好きなのは、ニック・ワプリントンというイギリスの写真家。作品はジェフ・ウォールをもっとリリカルにした感じもあって、技術も高いしすごくいいんですが、とても変わった人らしいんですよ。アーティスト写真も公開されていなかったりして。もっとメジャーな人だと、傾向は違いますが、(ヴォルフガング・)ティルマンスやライアン(・マッギンレー)も好きです。ライアンは昔はあまり好きではなかったんですが、彼のやりたいことを理解してからは気になる存在になりました。ティルマンスには、シンパシーを感じます。彼の写真は、完全なコマーシャリズムでもないし、近寄りがたいアートでもない。その微妙なところを行ったり来たりしながら自己増殖させていくところは、自分に近いところがあるなと思ったりします……。特に写真集『Abstract Pictures』には、非常に感銘を受けました。

—音楽が絵画よりも写真に近しいと感じるように、音楽家である渋谷さんと写真家たちの視線、作品に対するスタンスも似ているのかも知れませんね。

渋谷:そう思いますね。抽象絵画はあっても、抽象写真というのは概念的には成立しないですよね。僕がやっている音楽も完全に抽象的なものではないので、その「行ったり来たりする」感覚は近いと思います。

渋谷慶一郎

—その渋谷さんのクリエイティビティーが、様々な新しいチャレンジを支えているのかと思いますが、渋谷さんが音楽を担当され、音楽×ビジュアルの新たな試みとなるボカロオペラ『THE END』が間もなく上演ですね。

渋谷:はい、これも先ほどのテクノロジーの進化がもたらした新しい形の作品になりますね。サウンドは通常のサラウンドの倍の10.2チャンネル、映像は1万ルーメン以上のプロジェクターを7台使って実現する、オーディオビジュアルのショーとしても破格だし、これまでの初音ミク映像にはない斬新な演出もたくさん仕掛けています。音楽の形式やスタイルはいわゆるクラシックを踏襲したものではなくて、現在の地点から作っていて多彩ですが、あえて伝統的なオペラ形式を踏襲しています。オペラ的要素をすべて入れつつも、そこに生きている人間=歌手やオーケストラだけがいないという、シニカルな空間が実現する予定です。今までにないオペラになることは間違いないので、期待していただきたいです。まさに今、楽曲制作も佳境を迎えているんですが、その記録もNEX-5Rで撮影したりしています。

—渋谷さんは本当に、カメラという身近なテクノロジーを、活動の中で上手に使っていらっしゃるんですね。

渋谷:さきほどもお話した通り、「同じものをどれだけ違うものに読み換えられるか」ということが、作り手としてとても重要だと考えているので、カメラを使って日々の風景を撮影することで、新しいことに気がついたりするんです。しかもNEX-5Rはエフェクトやボケ味などの設定もしやすいので、その場で思い浮かんだイメージを、写真に落とし込みやすい。そういった創作面以外にも、演奏風景を公開したり、自分の情報を外に伝える手段として頻繁に使いますし、自分の活動にとって、写真の存在は意外と大きいです。NEX-5Rはアプリケーションをインストールすることもできるので、どんな進化をするのか楽しみでもあるし、そういった進化を横目で見たり使ったりしながら、音楽に自分でも予想しなかったフィードバックがあれば楽しいですよね。

渋谷慶一郎が使う、NEX-5R

コントラストが映える照明
右下に写っているのがDSDレコーダー
ペダルだけに着目しても面白い
取材にきたCINRA野村さん                        

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